ワークショップ研究室 3 ワークショップのコミュニケーション促進機能

 
 「コミュニケーション不足」という言葉があります。しかし言うまでもなく、コミュニケーションで大切なのは量よりも質です。
 結論を先に言えば、ワークショップは参加者相互のコミュニケーションを促し、参加者を「関係の中へ解放する」ことができます。
 ここでは教育機能に続いて、ワークショップの「コミュニケーション促進機能」について考えてみましょう。

 私たちは「自分を大切にしたい」と思っています。「自分が生きたいように生きたい」し、他人に干渉されたくありません。
 しかし自分を大切にすることと、自分勝手に生きることは、もちろんイコールではありません。むしろ不思議なことに、私たちは他者と良いコミュニケーションが取れた時こそ「自分を大切にすることができた」「自分を生きることができている」と感じるものです。

 時代が変わり、都市化が進んだことで、私たちはかつてのような地縁や血縁からは解放されたかもしれません。しかし近代、もしくは現代に生きる私たちもまた、「特に望まない相手」ともコミュニケーションを図りながら生きて行かざるを得ないのです。
 実は「特に望まない相手とコミュニケートする」ことは、辛いことばかりではありません。自分にはない能力を持った人と力を合わせて何かを成し遂げたり、自分の中に新しい自分を発見したり、コミュニケーションそのものの喜びを味わったりするチャンスでもあります。

 優れたワークショップでは、穏やかに、無理のない形で「特に望まない相手とコミュニケートする」ことが可能です。
 講師・進行役と参加者の関係だけでなく、むしろ参加者相互の関係において、他者を理解し、自分自身を知り、コミュニケーションの楽しさを味わえること。それがワークショップの「コミュニケーション促進機能」です。

 ワークショップの教育機能については、「受講者は変わったか?」という観点からの評価が不可欠でした。同様にコミュニケーション促進機能については、「関係は変わったか?」という観点からの評価が不可欠です。
 よく組織されたワークショップでは、本来であれば緊張が先に立つ「他者との関係」について、それを楽しんだり、その中で自分を解放する感覚を味わったりすることができます。過剰な自己防御をひととき忘れ、他者に心を開き、そのことによっていっそう「自分が自分であること」を実感し、あわせて他者への素直な敬意を感じることができます。
 そのワークショップでは、どうでしたか?
 コミュニケーションの相手ではなく、自分のコミュニケーションのあり方の幅を広げられた場合、私たちはそれを「コミュニケーション能力が向上した」と言っても良いのではないかと思います。

 「コミュニケーション能力」は、なかなか手ごわい言葉です。これについては、後であらためて考えてみることにしましょう。
 とりあえずここでは、平田オリザの『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』という、1冊の本を紹介しておくことにします(講談社現代新書/2012年)。
 これはコミュニケーションについて、中でも「コミュニケーション能力」という言葉そのものについて、根本から考え直してみるのにとても役立つ本です。

 演劇人である平田オリザはこの本の中で、演劇がコミュニケーション教育に有効である理由を、自分の実践に基づいて分かりやすく説明しています。演劇の持つ「教育機能」と「コミュニケーション促進機能」について語っている、と言い直すこともできそうです。
 私はこの二つの機能について、演劇からワークショップや授業へと、より広く、一般化して考えようとしているわけです。

 平田オリザとその活動について知っておきたい、という人のために、講談社のサイトと、内田洋行教育総合研究所のサイトのインタビューを紹介しておくことにします。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33811
http://www.manabinoba.com/index.cfm/6,18472,12,html
(大泉浩一)
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