私の本業はワークショップを作ることではなく、メディアを作ることです。
ところが両方を手がけてみると、この二つはよく似ているなあと思います。
良いメディアを作って受け手に届けるためには、プロデュース、ディレクション、クリエイティブの、3つの仕事が必要です。
プロデューサーは、①お金と②人事と③スケジュールの責任者。①予算を組み、資金を調達し、支払いをして、決算を行います。②誰に仕事を任せるかを決め、その理由を示して関係者を納得させ、時には人の入れ替えを断行します。③期限までにメディアを完成させて受け手に届け、その評価に耳を傾け、次の企画に活かします。
ディレクターは、メディアの仕上がりに責任を負います。映画ならば監督、雑誌ならば編集長。仕上がりのイメージを明確に持ち、スタッフに説明し、段取りを組んで仕事を進めます。欠かせないのが受け手の視点。自分が作りたいものと受け手が望むものとを擦り合わせ、最終的には「受け手としての自分」が欲しいものを追求します。
クリエイターは、コンテンツのクオリティーを追求します。ライターはテキストを、フォトグラファーは写真を、イラストレーターは絵を、受け手の代表であるディレクターの指示を咀嚼した上で形にします。それらの原稿を、デザイナーがレイアウトを考え、色や飾りをつけて一つにまとめるのです。これは印刷物の場合ですが、ウェブサイトを作ったり、舞台を作ったり映画を作ったりする場合も、基本的には変わりません。
良いワークショップの作り方は、良いメディアの作り方によく似ています。似ているどころか「ほとんど重なっている」というのが私の実感です。
お金や会場の心配をし、誰を講師にするかを考え、日程を組んで参加者を集める。これはプロデューサーの仕事です。
ワークショップの内容に応じて必要な物を準備し、受け付けその他のスタッフを確保し、会場を整え、参加者がワークに気持ちよく集中できるよう、案内や指示の表現に気を使う。これはディレクターの仕事です。
教育とコミュニケーション促進という目的を踏まえた上でワークショップの内容を考え、参加者に直接働きかけて、密度の高い時間を創り出す。これはクリエイターの仕事です。
この三者が、あるいはこの三つの仕事がかみ合った時、参加者にとって有意義なワークショップが生まれると言って良いでしょう。
ワークショップの進行を担う人を「ファシリテーター」と呼ぶことがありますが、ファシリテーターは「良きディレクターにして良きクリエイター」だと考えれば、分かりやすいのではないでしょうか。
一人二役をこなすことは大変で、プロがメディアを作る際は分業が原則です。しかしワークショップでは、参加者の反応を見ながら臨機応変に内容をコントロールできるという大きなメリットがあるのです。
良い独学もあるし、良いレクチャーもあります。しかし「名ファシリテーター」によって提供される「良いワークショップ」は、参加者にとってこの上ない学びの喜びを味わえるひと時になり得ます。
(大泉浩一)
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