ワークショップ研究室 8(完)ワークショップで楽しく学ぶ

 このシリーズの最終回です。
 私は授業や講座で教えることを仕事にしています。
 メディアデザインでも、たくさんのワークショップを企画・実行してきました。
 しかし私は自分が、まず第一に「学ぶ人」でありたいと考えています。
 それだけ「学び」は楽しく、魅力に溢れていると思うのです。

 私自身はおもに、本、旅、人に学んできましたし、これからもそうありたいと思っています。
 本には子どもの時から親しみ、事典やマンガを含む、さまざまな本に学んでできました。
 旅は高校時代から一人で出かけることを好み、身をもって世の中の多様さを知りました。また旅先で読んだ本や旅先で会った人たちにも、多くのことを学びました。
 人づきあいは今でも苦手ですが、大学で優れた師や心を開ける友人たちと出会うことができたおかげでだいぶ変わりました。本当に運がよかったと思っています。

 人の間で、体験することや自分の頭で考えること、そして他の人とそれを共有したり摺り合わせてみることの楽しさは、やはり大学で学びました。
 30年以上前の当時、ワークショップや学生主体型授業という言葉はありませんでした。しかしたまたま入った先が、まさにそうした考え方を、大きく取り入れた大学だったのです。

 もちろんレクチャーにも多くのことを学びましたし、高校まで学校で身につけたことにも大いに意味があったと思っています。
 また、レクチャーでも徒弟制度でも、学ぶ人は学ぶし学ばない人は学ばない、という考えもあるでしょう。
 それでもなお私は、ワークショップ型の教育に期待しています。

 レクチャーや読書による学びで、私たちは高いところに行くことができます。
 旅は世界を広げますが、現代ではインターネットで得られる情報や交流のおかげで、私たちは無限とも言える広がりを手に入れました。
 そしてワークショップをはじめとする体験的な学びによって、私たちは自分自身や他者との関係の深みへと降りて行くことができます。
 高さと深さ、そして広がり。
 学びをこうした3次元的なイメージやバランスでとらえることは、かなり有効ではないでしょうか。

 楽しんで学ぶ。
 他の人と交わって学ぶ。
 そして変わる。
 そんなワークショップが、特別な教育の形ではなく、もっと当り前になりますように。

 以上が、私なりの「ワークショップの研究」です。
 やや個人の体験に引きつけ過ぎたかもしれませんが、お読みになった方に何らかのヒントになれば幸いです。
(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 7 コミュニケーション能力とは?

 ふつうは読む力・書く力・聞く力・話す力の4つを、コミュニケーション能力と言います。
 言葉を使って、他者と情報や意思、感情、そして価値観を伝え合う能力です。
 しかし言葉を使うバーバルコミュニケーションだけでなく、表情やしぐさといったノンバーバルコミュニケーションも大切です。
 『人は見た目が9割』という本もヒットしました(竹内一郎/2005年/新潮新書)。

 ところが「コミュニケーション能力」という言葉は奥が深く、これでもまだ説明は十分ではありません。
 たとえば私が授業でよく取り上げ、学生たちに検討を促すのは、
「他人と力を合わせる力」
 や
「他者への想像力」
 という説明です。

 小学校から高校まで、ふつう「コミュニケーション」という授業はありません。
 ところが採用にあたって、企業が最も重視する能力は「コミュニケーション能力」だそうです。*
 第3次産業がメーンとなった現代の日本で生きていく(稼いでいく)ためには、しばしば「他者に勝てる競争力」以上に、「他者とコミュニケーションする力」が必要とされるのです。
 しかも地域の顔見知りや同世代の仲良しとではない、まったくの「他者」との。

 私は大学では、講義の名目にかかわらず「コミュニケーション能力の向上」を目的にして授業をしています。
 「他人と力を合わせ」たり、「他者への想像力」をはたらかせたりすることは、決して簡単なことではありません。また、得意だとか苦手だとか言って済ませることはできないのが現実です。
 「コミュニケーション能力偏重主義」への懐疑や、その問題点は否定しません。しかしここでは一度それを置いて、「コミュニケーション能力」を向上させる方法について考えてみます。

 コミュニケーション能力を上げるにはどうすれば良いのでしょうか。
 それは経験し、楽しみ、反省し、次の機会に生かせば良いのです。
 知識を得たり他の人のやり方をまねるだけでは、表面的な力しかつきません。
 それはおそらく現実の、突然訪れる、一回きりの場面ではほとんど役に立ちません。

 「3 ワークショップのコミュニケーション促進機能」に、私はこう書きました。

〈自分のコミュニケーションのあり方の幅を広げられた場合、私たちはそれを「コミュニケーション能力が向上した」と言っても良いのではないかと思います。〉

 「自分のコミュニケーションのあり方の幅を広げ」る、良い方法があります。
 それは優れたファシリテーターの、良いワークショップに参加することです。
 良いワークショップでは、経験、楽しみ、反省、次の機会に生かそうとする気持ちのすべてが得られます。

 「次の機会に生かそうとする気持ち」は、特に大切です。
 それはシンプルに、「他者とコミュニケーションをしようとする気持ち」と言い換えてもいいかもしれません。
 競争で一番大切なことが「勝ちたいという気持ち」であるように、実はコミュニケーションで一番大切なことは「コミュニケーションしようとする気持ち」です。
 また「勝ちたいという気持ち」を持ち続けることが大切なのと同じように、「コミュニケーションしようとする気持ち」を持ち続けることが大切なのです。

 ワークショップで楽しく学ぶことは、私たちを励まし、コミュニケーションへの意欲を高め、自分が変わることへの恐れを和らげてくれます。
 次は最終回。「ワークショップで楽しく学ぶ」と題して、教育系ワークショップについて考えてきたことのまとめを試みたいと思います。

*たとえば「経団連タイムス」2014年1月9日号の記事
 新卒採用に関するアンケート調査結果公表
 -「コミュニケーション能力」が1位/選考時重視の要素で10年連続
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2014/0109_04.html

(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 6 ワークショップの作り方(3)

 今回はワークショップの内容と、実際の進め方についてです。
 ここでは私が実際に行っている、市民向けの「チラシ作り講座」を例にとります。

 「チラシ作り講座」の《狙い》は次の3つです。
a プロの知識や技術を身につける
b 自分が変わる
c 他の受講者と交流する

 ただし前回書いたように、受講者は「プロの知識や技術を身につけたい」とは考えていても、「自分が変わりたい」とか「他の受講者と交流したい」と思って来るわけではないという前提を確認しておきます。

 次が全体の進行の大枠です。
 bとcを促すワークショップは参加者にとって抵抗があり、最初から講師が「さあどうぞ」と言っても、空振りに終ったり表面的なものにとどまる可能性があります。
 そこで無理のない飛躍と着地のために、大きくは「レクチャー → ワークショップ → レクチャー」という構成にします。

 全体が90分なり120分なりに決まっているのですから、時間配分を決めておきます。
 私の経験では、時間を超過して良いことは一つもありません。少し早く終って、質疑応答の時間を設けたり、主催者の方との軽いやり取りで会場をクールダウンさせると良いでしょう。

 具体的な進行です。90分の場合の時間配分の例と《講座の狙い》abcの別も記しておきます。

●自己紹介〈5分〉a
 プロとしての自分の仕事を、実際の印刷物を示しながら紹介します。「作るためによく見る」ことの大切さも伝えます。

●レクチャー:チラシ作りの3つの基本〈5分〉b
 ①読み手が主役 ②読み手が先生 ③読み手は自分
 「チラシ作りとは読み手とのコミュニケーションである」ことを理解していただきます。読み手への想像力を欠いて作ったチラシは、どんなにきれいでも絶対に機能しません。読み手を説得して行動してもらう(=変わってもらう)ためには、まず自分が変わらなければならないことを示唆します(強調はしません)。

●レクチャー:チラシの仕組み=文字原稿×図版原稿×デザイン〈5分〉a
 実際のチラシを例に、3つの要素に分けて説明し、全てが大切であることを納得していただきます。

●ワークショップ:鉛筆を使う〈20分〉ac
 方眼紙に直線や円を描きます。さらに人の顔を描いたり、大きな文字を書いたりします。ウォーミングアップであると同時に、受講者同士で会話していただくきっかけにもします。交流への抵抗感を和らげるため、この段階では相互の自己紹介は促しません。

●レクチャー:何をすれば良いか〈15分〉a
 チラシ作りの作業を分解して、その手順と注意点を説明します。
1 原稿整理
2 ラフデザイン
3 印刷原稿を作る
4 印刷する
5 届ける

●ワークショップ:原稿整理〈10分〉ac
 自分の企画の5W2H(いつ・どこ・だれ・なに・なぜ・どのように・いくらで)を書き出してもらい、明確化します。それを受講者同士で交換し、伝わるかを確認します。ここで自然に、お互いに自己紹介できるのが理想です。

●ワークショップ:ラフデザイン〈15分〉abc
 他の受講者の企画のためにサムネイル(小さなアイデアスケッチ)を描いたり、自分の企画のために原寸のラフデザインを描いたりします。絵やデザインに苦手意識を持っている人にも、ここまでで習った要素の組み合わせでチラシがデザインできることを実感できるよう心がけます。

●レクチャー:プロの技術〈15分〉a
 「訴求対象」「AIDMA(アイドマ)の法則」「文字のジャンプ率」など、広告作りや印刷デザインのキーワードを紹介しながら、チラシ作りのポイントを説明します。

 ここでは内容と進め方について具体的に説明しました。受講者が申し込みの際に期待した《狙い》aが、ほぼ全てに含まれていることに注意してください。

 90分すべてをレクチャーにあてれば、もっと多くの内容を詳しく伝えることができます。しかし翌日、実際にチラシを作ろうとしても手が動かないのでは講座の意味がありません。
 教育系ワークショップの第一の目的は、受講者が自分で何かをするためのハードルを下げることにあると、私は思います。知識や技術が役立つのは、その後なのですから。
 従ってワークショップの成果が問われるのは、その場ではなく翌日以降です。
(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 5 ワークショップの作り方(2)

 「主役は確かに参加者だったが、あの人がファシリテーターだからこそ良いワークショップになった。」
 そう思われる人こそが、名ファシリテーターでしょう。
 私の身近な人では、宮城県美術館の齋正弘(さい・まさひろ)さんが名ファシリテーターとして全国的に知られています。私も実際にワークショップをしていただいたり、本を書いたりしていただきました。この文の最後に、齋さんのワークショップのレポートのアドレスを書いておきます。

 残念ですが、私は名ファシリテーターではありません。
 名ファシリテーターの「名人芸」は容易に真似できるものではなく、また名ファシリテーターは誰もが、「私の真似をするのではなく、参考にして自分で考えてください」と言います。
 その言葉の通り、名人にはなれなくても、「参加者の深く楽しい学びのためにワークショップを工夫しよう」と考えることはできます。名人ではない私たちが良いワークショップを実現するには、どうすれば良いのでしょうか。

 私がワークショップを取り入れた講座や授業で心がけているのは、「運び(ディレクション)」と「内容(クリエイティブ)」を、いちど分けて考えることです。「教育はまず内容」と考える人が多いと思いますが、内容と同じくらいディレクションも大切だ、と私は思っています。
 私自身が気をつけている、ディレクションのポイントを3つ挙げてみます。

☆会場作り
 1つ目は、人数と内容に合わせた「空間」作りです。これは雰囲気を含みます。
 私は講座では早めに着いて、まず最初に会場を見せていただきます。授業で毎週同じ教室を使うのでない限り、絶対に欠かしません。
 広さや天井の高さを確認します。狭すぎることは少なく、広すぎる場合が多いようです。前の方に座っていただくために、人数に合わせて、使わないテーブルや椅子は後ろの方や壁際に寄せてしまいます。この時、主催者側のスタッフの方と一緒にテーブルや椅子を運んだり並べたりしながら、コミュニケーションを図るようにしています。
 決定的なのが机や椅子の配置です。可能な限り、全員が前を向いて座る「スクール型」を避けます。人数が少なめであれば講師を含む「円卓型(ロの字型)」にし、多めであれば4人ずつを目安にテーブルで島を作って「グループ型」にします。
 私は原則としてスクリーンを使いません。パワーポイントの是非はひとまず置いておきます。それ以上に、できるだけ会場を明るくしておいて、私の顔はともかく、参加者が自然に相互の顔を見られるようにしておきたいのです。
 私はホワイトボードや黒板をたくさん使います。文字を大きく書くためです。文字が小さくて読みにくいと、それだけで後ろの方の人の気持ちが離れてしまいます。据え付け型でなく可動型の場合は、2面でも3面でも、たくさん持ち込んでいただけるようお願いします。
 セッティングが終ったら、自分で参加者の一番前の席と一番後ろの席に座ってみます。また、主催者側のスタッフの方にも座っていただいて、私が話したりホワイトボードに文字を書いてみたりして、聴きやすさや読みやすさについてお尋ねします。
 スタッフにも参加者の視点を確認していただきたいのが第一ですが、実は講師とスタッフのコミュニケーションを図るためでもあります。私のことを「偉い先生」と勘違いしていることがたまにありますが、会場のスタッフが緊張していると、参加者にその緊張が伝わります。始まる前に、スタッフとコミュニケーションをとることは非常に大切です。

☆リラックス
 2つ目は、緊張と緩和のコントロールです。
 講座の参加者は、最初はほぼ間違いなく緊張しています。主催者側のスタッフが「先生のご紹介」で散々持ち上げてくださったりすると、正直に言って困ります。そこで最初は緩和から入って、参加者にはまずリラックスしていただくように心がけています(授業では教室の雰囲気によって、わざと最初に緊張を持ち込むことがあります)。
 自己紹介やこれから行う内容の説明で笑いがとれれば良いのですが、残念ながら私はそうした芸を持ち合わせていません。そこでまず、自分自身が笑顔で、ゆっくりと話し始めるように気をつけています。
 実は私はものすごい早口です。思いついたことを話してしまわないと、忘れそうで不安なのです。良いことではありませんが、こうしたことは自分なりの個性だと思わないと、萎縮して自分自身を緊張させてしまいかねません。それだけに…最初だけでも…ゆっくりと…そして…笑顔で。
 そうして90分間なり120分間の中に、何度か緊張と緩和の波を作ります。
 最初の緊張した雰囲気は、自己紹介や内容説明で緩めます。次に参加者が緊張するのは、何かの作業をしていただく時や、参加者相互で話しをしていただく時です。作業をしていただこうとしても、講師や他の人の評価が気になって手が動かない人がいます。必要があれば会場を回って、そうした人に一声かけるようにします(笑顔で)。
 参加者相互で話してもらう時は、最初に話す人を指名したり、回す順番を指示します。「自由に」でうまく行くことは少なく、「講師の指示なのでやむなく」の方が話しやすい人の方が多いはずです。人数が多く、いくつかの島がある「グループ型」の場合は、緊張しているグループがないか様子を見て、場合によっては口を挟んでちょっとだけ盛り上げます(笑顔で)。

☆参加者からの視点
 3つ目は、無理のない飛躍と無理のない着地です。
 ワークショップでは参加者に、変わっていただかなければなりませんし、相互に交流していただかなければなりません。これは大変なことです。
 私自身は「変わる」ことも、「交流する」ことも苦手です。今の自分を守りたいし、他の人に嫌われたり低く評価されたりしたくないからです。
 参加者は「学びたい」とは思っていても、「変わりたい」「交流したい」という人はほとんどいない、という前提で流れを組み立てます。「何を」するかはもちろん大切ですが、「どの順番で」「どのように動いてもらうか」もとても大切です。参加者の全員が、できるだけ無理なく、自分から「変わりたい」「交流したい」と思ってもらえるようにしたいと思っています。これが「飛躍」です。
 残念ながら、「こうすればうまく行く」という方法はありません。会場や参加者の様子を見ながら、用意していた作業の順番を変えたり、思い切って一部を取りやめたり、作業時間を限って意識的に緊張してもらったりします。グループ内で、一人で盛り上がって話し続けている人を見つけたら、寄って行ってまず心から耳を傾けた上で、タイミングを見て他の人に話を振るようにします。
 臨機応変。名ファシリテーターでない限り、ある程度場数を踏み、失敗もしないと身につかないでしょう。私自身も、今も試行錯誤の連続で恥をかき続けています。
 そうやって小さな飛躍と着地を繰り返しながら、与えられた時間の全体に、大きな飛躍と着地、言い換えれば山場とフィニッシュを作ります。これは先に述べた緊張と緩和とも重なります。
 ワークショップの終了後、参加者の皆さんが心地よい疲れを感じていただければ、講師としてはうれしい限りです。実際には講師である私だけが、変な汗をかいて終ることもしばしばですが…。

 さて、次はいよいよ「内容」の話になります。

◇齋正弘さんワークショップレポート
http://mediadesign.jp/workshop_blog/article-4745/
http://mediadesign.jp/workshop_blog/article-2301/

(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 4 ワークショップの作り方(1)

 
 私の本業はワークショップを作ることではなく、メディアを作ることです。
 ところが両方を手がけてみると、この二つはよく似ているなあと思います。

 良いメディアを作って受け手に届けるためには、プロデュース、ディレクション、クリエイティブの、3つの仕事が必要です。

 プロデューサーは、①お金と②人事と③スケジュールの責任者。①予算を組み、資金を調達し、支払いをして、決算を行います。②誰に仕事を任せるかを決め、その理由を示して関係者を納得させ、時には人の入れ替えを断行します。③期限までにメディアを完成させて受け手に届け、その評価に耳を傾け、次の企画に活かします。

 ディレクターは、メディアの仕上がりに責任を負います。映画ならば監督、雑誌ならば編集長。仕上がりのイメージを明確に持ち、スタッフに説明し、段取りを組んで仕事を進めます。欠かせないのが受け手の視点。自分が作りたいものと受け手が望むものとを擦り合わせ、最終的には「受け手としての自分」が欲しいものを追求します。

 クリエイターは、コンテンツのクオリティーを追求します。ライターはテキストを、フォトグラファーは写真を、イラストレーターは絵を、受け手の代表であるディレクターの指示を咀嚼した上で形にします。それらの原稿を、デザイナーがレイアウトを考え、色や飾りをつけて一つにまとめるのです。これは印刷物の場合ですが、ウェブサイトを作ったり、舞台を作ったり映画を作ったりする場合も、基本的には変わりません。

 良いワークショップの作り方は、良いメディアの作り方によく似ています。似ているどころか「ほとんど重なっている」というのが私の実感です。
 お金や会場の心配をし、誰を講師にするかを考え、日程を組んで参加者を集める。これはプロデューサーの仕事です。
 ワークショップの内容に応じて必要な物を準備し、受け付けその他のスタッフを確保し、会場を整え、参加者がワークに気持ちよく集中できるよう、案内や指示の表現に気を使う。これはディレクターの仕事です。
 教育とコミュニケーション促進という目的を踏まえた上でワークショップの内容を考え、参加者に直接働きかけて、密度の高い時間を創り出す。これはクリエイターの仕事です。
 この三者が、あるいはこの三つの仕事がかみ合った時、参加者にとって有意義なワークショップが生まれると言って良いでしょう。

 ワークショップの進行を担う人を「ファシリテーター」と呼ぶことがありますが、ファシリテーターは「良きディレクターにして良きクリエイター」だと考えれば、分かりやすいのではないでしょうか。
 一人二役をこなすことは大変で、プロがメディアを作る際は分業が原則です。しかしワークショップでは、参加者の反応を見ながら臨機応変に内容をコントロールできるという大きなメリットがあるのです。
 良い独学もあるし、良いレクチャーもあります。しかし「名ファシリテーター」によって提供される「良いワークショップ」は、参加者にとってこの上ない学びの喜びを味わえるひと時になり得ます。
(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 3 ワークショップのコミュニケーション促進機能

 
 「コミュニケーション不足」という言葉があります。しかし言うまでもなく、コミュニケーションで大切なのは量よりも質です。
 結論を先に言えば、ワークショップは参加者相互のコミュニケーションを促し、参加者を「関係の中へ解放する」ことができます。
 ここでは教育機能に続いて、ワークショップの「コミュニケーション促進機能」について考えてみましょう。

 私たちは「自分を大切にしたい」と思っています。「自分が生きたいように生きたい」し、他人に干渉されたくありません。
 しかし自分を大切にすることと、自分勝手に生きることは、もちろんイコールではありません。むしろ不思議なことに、私たちは他者と良いコミュニケーションが取れた時こそ「自分を大切にすることができた」「自分を生きることができている」と感じるものです。

 時代が変わり、都市化が進んだことで、私たちはかつてのような地縁や血縁からは解放されたかもしれません。しかし近代、もしくは現代に生きる私たちもまた、「特に望まない相手」ともコミュニケーションを図りながら生きて行かざるを得ないのです。
 実は「特に望まない相手とコミュニケートする」ことは、辛いことばかりではありません。自分にはない能力を持った人と力を合わせて何かを成し遂げたり、自分の中に新しい自分を発見したり、コミュニケーションそのものの喜びを味わったりするチャンスでもあります。

 優れたワークショップでは、穏やかに、無理のない形で「特に望まない相手とコミュニケートする」ことが可能です。
 講師・進行役と参加者の関係だけでなく、むしろ参加者相互の関係において、他者を理解し、自分自身を知り、コミュニケーションの楽しさを味わえること。それがワークショップの「コミュニケーション促進機能」です。

 ワークショップの教育機能については、「受講者は変わったか?」という観点からの評価が不可欠でした。同様にコミュニケーション促進機能については、「関係は変わったか?」という観点からの評価が不可欠です。
 よく組織されたワークショップでは、本来であれば緊張が先に立つ「他者との関係」について、それを楽しんだり、その中で自分を解放する感覚を味わったりすることができます。過剰な自己防御をひととき忘れ、他者に心を開き、そのことによっていっそう「自分が自分であること」を実感し、あわせて他者への素直な敬意を感じることができます。
 そのワークショップでは、どうでしたか?
 コミュニケーションの相手ではなく、自分のコミュニケーションのあり方の幅を広げられた場合、私たちはそれを「コミュニケーション能力が向上した」と言っても良いのではないかと思います。

 「コミュニケーション能力」は、なかなか手ごわい言葉です。これについては、後であらためて考えてみることにしましょう。
 とりあえずここでは、平田オリザの『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』という、1冊の本を紹介しておくことにします(講談社現代新書/2012年)。
 これはコミュニケーションについて、中でも「コミュニケーション能力」という言葉そのものについて、根本から考え直してみるのにとても役立つ本です。

 演劇人である平田オリザはこの本の中で、演劇がコミュニケーション教育に有効である理由を、自分の実践に基づいて分かりやすく説明しています。演劇の持つ「教育機能」と「コミュニケーション促進機能」について語っている、と言い直すこともできそうです。
 私はこの二つの機能について、演劇からワークショップや授業へと、より広く、一般化して考えようとしているわけです。

 平田オリザとその活動について知っておきたい、という人のために、講談社のサイトと、内田洋行教育総合研究所のサイトのインタビューを紹介しておくことにします。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33811
http://www.manabinoba.com/index.cfm/6,18472,12,html
(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 2 ワークショップの教育機能 

 
 ワークショップにはいろいろな種類があります。
 「表現創作系」「課題解決系」「教育系」「手作り系」など。
 この研究室では、主に「教育系ワークショップ」について考えることにします。

 ワークショップには教育機能があります。これは「教育系ワークショップ」に限らず、「表現創作系」「課題解決系」「手作り系」にも共通する機能です。
 ワークショップの代表的な機能には、他に「コミュニケーション促進機能」があります。これについては、次回考えることにしましょう。

 ワークショップでは「楽しさ」が大切にされます。しかし「みんなが楽しんだから良かった」で終ってしまってはエンターテイメントです。もちろんワークショップがエンターテイメント的要素を含むことは否定しませんし、ワークショップがエンターテイメントより上だと言っているわけでもありません。
 ただ、ワークショップがエンターテイメントではない以上、受講者(参加者)の成長が無ければ「教育的には機能しなかった」ということになります。エンターテイメントでは「楽しかったか?」という評価がなされるように、ワークショップでは「受講者は変わったか?」という評価がされなければなりません。

 ワークショップの教育機能に注目した実践としては、たとえば次のようなものがあります。
開発教育協会の参加型学習
http://www.dear.or.jp/activity/
学びの場.comのワークショップ型授業
http://www.manabinoba.com/index.cfm/6,2890,14,html
全国教育系ワークショップフォーラム
http://skunkworks.jp/wsf/

 いずれも優れた実績を残しています。
 それではワークショップとレクチャーを比べた場合、ワークショップはレクチャーに勝るのでしょうか? すべての教育は、レクチャー形式ではなくワークショップの形式で行われるべきなのでしょうか?
 もちろんそうではありません。レクチャーとワークショップにはそれぞれ長所があるので、教育の目的や内容に応じて使い分けるべきなのです。

 レクチャーでは一度に大勢が、高度な内容を、短時間で、効率よく学ぶことができます。
◎講師が話して受講者は聴く
◎説明によって学ぶ
◎講師と受講者のやり取り

 ワークショップでは適正な人数であれば、深い内容を、主体的に、身をもって学ぶことができます。
◎受講者が主役(ファシリテーターが脇役・観客)
◎体験的に学ぶ
◎受講者の相互交流

 私自身もレクチャー形式で授業や講座を進めることがあります。しかしたとえば、レクチャーの最初に問いを発して挙手によって答えてもらい、その結果を手がかりに話を進めることもできます。隣に座った人同士で、その答えについて対話してもらったりもします。ワークショップの手法を取り入れているわけです。
 逆にワークショップのまとめに、レクチャーを行うこともあります。その時間に受講者が体験したことを、実際の社会状況と結びつけて説明するなどして、学んだ内容を言葉で再確認してもらうためです。

 私は大学や専門学校で、ワークショップの手法を取り入れたいくつかの授業をしています。高等教育に限らず、日本の学校ではワークショップがもっと試みられるべきではないでしょうか。そして大きく見れば、日本の教育はそうした方向に向かっていると思います。
(大泉浩一)
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ワークショップ研究室 1 ワークショップとは?

 
ワークショップとは何でしょう?
多くの人がこの言葉を使い、実際に行い、また手応えと可能性とを感じています。
私もその一人です。

たとえば一般社団法人メディアデザインでは、たくさんのワークショップをプロデュースしてきました。*
また講師として呼ばれ、「ワークショップ」という名前の講座を担当することもあります。**

ワークショップという言葉は便利ですが、実は私自身、とらえどころがない面も感じていました。
そこであらためて辞書を引いてみたのですが、明確な定義があるわけではないようです。***

どうやらワークショップは…
○最初は演劇や美術などの「表現」の場で、新しいスタイルのレッスンとして使われ始めて広まった。
○今では、まちづくり・市民活動関係で、参加者が課題の解決に主体的に取り組むため(取り組んでもらうため)の方法として人気がある。
○また最近では、学校・行政・企業において、教育・研修・会議等にも取り入れられている。
○一方で、工作や手芸の教室もワークショップと呼ばれることが多い。
…ようです。

私自身はさまざまな講師経験から、
◎受講者が主役(ファシリテーターが脇役・観客)
◎体験的に学ぶ
◎受講者の相互交流
の3つを柱とした講座を、ワークショップだと考えています。

◎講師が話して受講者は聴く
◎説明によって学ぶ
◎講師と受講者のやり取り
を3つの柱とする「レクチャー」と対比させて考えると、分かりやすいかもしれません。
 私は大学や専門学校で、非常勤講師としてさまざまな授業を担当しています。
その際もできるだけ「レクチャー」を控え、「ワークショップ」の手法を取り入れるようにしています。
このブログではより良いワークショップを実現し、講師(ファシリテーター)も受講者(参加者)も楽しみながら成長できるよう、ワークショップについて考えて行きたいと思っています。

*メディアデザイン・ワークショップ
http://mediadesign.jp/workshops/
**たとえば仙台市市民活動サポートセンターでのワークショップ「市民ライター講座」
http://blog.canpan.info/fukkou/archive/1159
***インターネットの辞書「コトバンク」で横断検索
https://kotobank.jp
(大泉浩一)
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