ワークショップ研究室 6 ワークショップの作り方(3)

 今回はワークショップの内容と、実際の進め方についてです。
 ここでは私が実際に行っている、市民向けの「チラシ作り講座」を例にとります。

 「チラシ作り講座」の《狙い》は次の3つです。
a プロの知識や技術を身につける
b 自分が変わる
c 他の受講者と交流する

 ただし前回書いたように、受講者は「プロの知識や技術を身につけたい」とは考えていても、「自分が変わりたい」とか「他の受講者と交流したい」と思って来るわけではないという前提を確認しておきます。

 次が全体の進行の大枠です。
 bとcを促すワークショップは参加者にとって抵抗があり、最初から講師が「さあどうぞ」と言っても、空振りに終ったり表面的なものにとどまる可能性があります。
 そこで無理のない飛躍と着地のために、大きくは「レクチャー → ワークショップ → レクチャー」という構成にします。

 全体が90分なり120分なりに決まっているのですから、時間配分を決めておきます。
 私の経験では、時間を超過して良いことは一つもありません。少し早く終って、質疑応答の時間を設けたり、主催者の方との軽いやり取りで会場をクールダウンさせると良いでしょう。

 具体的な進行です。90分の場合の時間配分の例と《講座の狙い》abcの別も記しておきます。

●自己紹介〈5分〉a
 プロとしての自分の仕事を、実際の印刷物を示しながら紹介します。「作るためによく見る」ことの大切さも伝えます。

●レクチャー:チラシ作りの3つの基本〈5分〉b
 ①読み手が主役 ②読み手が先生 ③読み手は自分
 「チラシ作りとは読み手とのコミュニケーションである」ことを理解していただきます。読み手への想像力を欠いて作ったチラシは、どんなにきれいでも絶対に機能しません。読み手を説得して行動してもらう(=変わってもらう)ためには、まず自分が変わらなければならないことを示唆します(強調はしません)。

●レクチャー:チラシの仕組み=文字原稿×図版原稿×デザイン〈5分〉a
 実際のチラシを例に、3つの要素に分けて説明し、全てが大切であることを納得していただきます。

●ワークショップ:鉛筆を使う〈20分〉ac
 方眼紙に直線や円を描きます。さらに人の顔を描いたり、大きな文字を書いたりします。ウォーミングアップであると同時に、受講者同士で会話していただくきっかけにもします。交流への抵抗感を和らげるため、この段階では相互の自己紹介は促しません。

●レクチャー:何をすれば良いか〈15分〉a
 チラシ作りの作業を分解して、その手順と注意点を説明します。
1 原稿整理
2 ラフデザイン
3 印刷原稿を作る
4 印刷する
5 届ける

●ワークショップ:原稿整理〈10分〉ac
 自分の企画の5W2H(いつ・どこ・だれ・なに・なぜ・どのように・いくらで)を書き出してもらい、明確化します。それを受講者同士で交換し、伝わるかを確認します。ここで自然に、お互いに自己紹介できるのが理想です。

●ワークショップ:ラフデザイン〈15分〉abc
 他の受講者の企画のためにサムネイル(小さなアイデアスケッチ)を描いたり、自分の企画のために原寸のラフデザインを描いたりします。絵やデザインに苦手意識を持っている人にも、ここまでで習った要素の組み合わせでチラシがデザインできることを実感できるよう心がけます。

●レクチャー:プロの技術〈15分〉a
 「訴求対象」「AIDMA(アイドマ)の法則」「文字のジャンプ率」など、広告作りや印刷デザインのキーワードを紹介しながら、チラシ作りのポイントを説明します。

 ここでは内容と進め方について具体的に説明しました。受講者が申し込みの際に期待した《狙い》aが、ほぼ全てに含まれていることに注意してください。

 90分すべてをレクチャーにあてれば、もっと多くの内容を詳しく伝えることができます。しかし翌日、実際にチラシを作ろうとしても手が動かないのでは講座の意味がありません。
 教育系ワークショップの第一の目的は、受講者が自分で何かをするためのハードルを下げることにあると、私は思います。知識や技術が役立つのは、その後なのですから。
 従ってワークショップの成果が問われるのは、その場ではなく翌日以降です。
(大泉浩一)
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